大きな地震が発生したとき倒壊する危険性のある家とはどんな家でしょうか?築年数何年以上の家が危険なのか、なぜ倒壊するのかについて詳しく解説します。
阪神淡路大震災で倒壊した家と倒壊しなかった家
阪神淡路大震災で倒壊した家
1995年1月17日に発生した阪神淡路大震災では、10万5000棟の家屋が全壊し14万4000棟の家屋が半壊しています。この地震により6000名を超える方が亡くなられていますが、亡くなられた方の実に4分の3は建物の倒壊による圧死および窒息死と言われています。一瞬で居住していた家屋が倒壊したために非常に多くの方の命が奪われているのです。
内閣府の阪神・淡路大震災教訓情報資料集によれば、倒壊した家屋の多くは1981年以前のいわゆる旧耐震基準で建てられています。この旧耐震基準は1950年に施行された基準であり、「震度5程度の地震でも大きな損傷を受けないこと」を基準としていたため、震度6強の阪神淡路大震災では全く被害を抑えることができませんでした。つまり、阪神淡路大震災で倒壊した家屋のほとんどが1981年以前の旧耐震基準で建てられた家屋だったのです。
ここでお伝えしたいことは、耐震補強をせずに1981年以前に建てた家に住んでおられる方は、今すぐに耐震補強していただきたいということです。震度6クラスの地震が来たらかなりの確率で家屋が倒壊し命を落としてしまう危険性があるからです。1981年以前に建てられた家は2024年時点で築44年となります。このような家に住んでおられる方は高齢者の方が多く、高い費用を負担して耐震補強する気力もなく、そのまま放置されていることが多いと考えられます。
私たちは、地震によって命を落とす方を一人でも減らすため、たとえご本人が無理であってもご家族様が耐震補強していただけないかと考えています。ご家族様の費用負担をできるだけ軽減するため、DIYで耐震補強工事ができるよう、わかりやすい施工マニュアル・施工動画を準備して業界最安値で耐震補強用の金具をご提供しています。
阪神淡路大震災で倒壊しなかった家
阪神淡路大震災の直後、兵庫県芦屋市と神戸市長田区において、一面が倒壊した家屋の瓦礫ばかりのなかで、なぜかポツン、ポツンと倒壊せずに建っている家屋がありました。後日の調査によれば、倒壊しなかった家のほとんどは3階建の住宅であり、旧耐震基準で建てられているのですが、建物が3階建であったために、建築基準法・令第82条に従って柱と基礎を金具で補強してあったことがわかりました。つまり木造3階建の家屋は、柱が土台から抜ける「柱のほぞ抜け」が起こらなかったため、震度6強の阪神淡路大震災でも倒壊しなかったのです。
ここでお伝えしたいことは、阪神淡路大震災のような震度6強の地震が来ても、建物の主要な柱と基礎をしっかりと接合金物(ホールダウン金物)で補強してあれば、倒壊するリスクを抑えられるということです。
大きな地震が来た時、ホールダウン金物をつけていない場合は一瞬で建物の1階部分が崩れる「層崩壊」が起こり、命を落としてしまいます。いっぽうホールダウン金物をつけている場合では、100%完全に倒壊を防げるとは言い切れませんが、少なくとも層崩壊が起こるまでに避難して逃げる時間は十分に確保できます。命を落とさないようにするためには、ホールダウン金物を設置しておくことが本当に大切なことです。
熊本地震で倒壊した家と倒壊しなかった家
阪神淡路大震災での教訓により改訂された耐震基準(2000年基準)
1995年の阪神淡路大震災から災害状況について様々な調査が行われた結果、1981年の新耐震基準(震度6強の地震でも建物が倒壊しない基準)の家であっても多くの家屋が倒壊したため、新耐震基準と呼ばれる基準が2000年に改訂されました。これが「2000年基準」と呼ばれるもので、現行の建築基準法となります。2000年基準では強度の高い耐力壁の使用量と、柱が土台から抜けないようホールダウン金物で四隅の柱を固定するという条件が追加されました。そのため、2000年6月以降に建てられた家には必ずホールダウン金物が設置されており、震度6強の地震が来ても家屋が倒壊せず命を守ることができるのです。
熊本地震で新耐震基準でも倒壊する家が多かった理由
上記のグラフからもわかるように、熊本地震では旧耐震基準の建物のほとんど(95%)が被害を受けており、新耐震基準の家でも実に20%が倒壊または大破しています。これは、新耐震基準が施行された1981年7月から2000年5月までに建てられた新耐震基準の家屋の20%が倒壊または大破したことを表しています。つまり、前項の2000年基準に準拠していない新耐震基準の家は、たとえ震度6強でも倒壊しない新耐震基準で建てられていたとしても、大きな地震が来ると倒壊する危険性があるということです。
また繰り返された能登半島地震での家屋倒壊の悲劇
能登地域の高齢化による大幅な耐震化の遅れ
2024年1月1日に発生した能登半島地震では、241人の方が死亡され21870件の家屋が全壊または半壊されています。(内閣府「令和6年能登半島地震に係る被害状況等について」より)また倒壊した家のほとんどが高齢者の方が住む「旧耐震基準」の建物と言われています。
被害の最も大きかった石川県珠洲市の高齢化率(全人口に占める65歳以上の割合)を見てみると2022年時点で51.1%です。(石川県発表)これは全国平均の28.8%をはるかに上回っています。(内閣府 高齢化白書より)じつに全住民のおよそ半数が65歳以上の高齢者の方で構成されているのです。
これは推測ですが珠洲市に住む高齢者の方々は、経済的な負担が大きい耐震補強をあきらめて放置されていたのではないでしょうか。またこうした高齢者の方々の住む家は、ほとんどが旧耐震基準であり、築年数にして45年以上の家屋が大半です。
前述のように旧耐震基準の家は、震度6クラスの地震が来るとかなり高い確率で家屋が倒壊してしまいます。私たちは20年以上ずっと、この旧耐震基準の方々に必要最低限の耐震補強を行っていただこうと活動を続けています。なぜ家屋が倒壊するのか、どんな家が危険なのか、必要最低限の耐震補強費用はいくらかなどあらゆる疑問にお答えする「耐震DIY普及センター」を是非ともご参考ください。
全国では1037万件以上の旧耐震基準の住宅が存在
(総務省統計局「昭和55年以前に建てられて耐震診断も耐震改修工事もしていない持ち家」より)
上記データは、全国に1037万件以上が旧耐震基準で何も耐震補強していない住宅が存在していることを表しています。熊本地震の調査からもわかるように、旧耐震基準で建てられた家屋は、大きな地震が来た時に家屋が倒壊し命を落とす危険性が極めて高いです。
そのため旧耐震基準の家(昭和55年/1981年以前に建てられた家)に住む方は、いますぐにでも耐震補強してください。住んでおられる方がご高齢で費用負担が難しいようなら、ご家族様が必要最低限の耐震補強工事をDIYで行ってください。たとえ完璧な耐震補強工事でなくとも、高齢者の方が命を落とすリスクをできるだけ減らす努力をしてください。何も対策をせず危険な状態で高齢者の方を放置することは絶対にやめてください。
東日本大震災についての考え方
2011年3月11日に発生した東日本大震災では、死者約19,000人、住宅全壊83,000棟の被害が発生しました。ここまで、大きな地震と耐震補強の関係について詳しくご説明してきました。本来は甚大な被害が発生した東日本大震災についてもご説明するべきです。しかし東日本大震災の場合、津波による被害が非常に大きかったため、地震と建物倒壊の因果関係を探ることは非常に難しい事例となっております。大変申し訳ありませんが、本コラムでは東日本大震災から耐震補強が必要な家についてご説明することは割愛させていただきます。何卒ご了承下さい。
地震で家屋が倒壊する要因
地震によって建物が倒壊する理由には様々な要因があり、ひとつに限定することはできませんが、大きく次の2つの要因が考えられます。
地震がおよぼす作用による要因
地震がおよぼす作用によって家屋が倒壊する地震と倒壊に至らない地震があります。
家屋を倒壊させるほどの地震は以下のような条件を満たしている地震と言えます。
- 横揺れや縦揺れなど地震による揺れの強さが住宅を倒壊させるほどの強さ(震度5以上)であること
- 震度5以下であっても繰り返し何度も発生していること
- 地震の揺れの周期と建物の揺れの周期が重なる共振現象が発生すること
建物の強度による要因
壁の強度、壁の量、壁の配置・バランス
土壁など強度の弱い壁で作られている家や、壁の量が少なく窓や開口部が多い家、または強度のある壁(耐力壁)が家の片方に集まりバランスの悪い家などは、その家の壁が原因となって家屋が倒壊する原因となります。
【チェックポイント!】
- 壁に筋交いは入っているか
- 壁に構造用合板は使われているか
- 間口が広く窓が多い間取りになっていないか
- 吹き抜けがあり壁の量が少なくないか
- 耐力壁がバランスよく配置されているか
柱のほぞ抜け
地震によって、建物の基礎の上に設置されている土台と家の構造を支えている柱がスッポリと抜ける「柱のほぞ抜け」が発生し、建物の屋根と2階部分の重さに耐えきれずに1階部分が潰されてしまう層崩壊が建物が倒壊する最も多い原因と言えます。
基礎のひび割れ・土台のシロアリ被害
築年数が古く基礎のコンクリート部分にひび割れが発生している場合、地震の揺れに耐えられず基礎部分が崩れる可能性があります。また、築年数の古い住宅に多い布基礎と呼ばれる基礎は、建物の重量を点で支える構造になっているため、各基礎にかかる重量が均等に荷重されず基礎が割れてくることがあります。このように基礎部分が大きく傾いている場合も建物の倒壊原因となります。
また、床上浸水などの水害に遭った建物はシロアリが発生しやすく、土台部分が腐食または崩壊している場合があります。このように土台そのものに十分な強度が見込めない場合は、建物倒壊の大きな原因となります。
土地の強度不足
次のような土地は、土地そのものに建物を支えるに十分な強度がないため、たとえ耐震性の高い建物であっても倒壊の危険性が高いです。
- 急な斜面の横で地震による土砂崩れの危険性がある土地
- 土地の一部に斜面があり地震により大きな傾きが発生する危険性のある土地
- 液状化現象により地震で土地の土砂が流出する危険性がある土地
- 河川に近く水害が発生する危険性のある土地
まとめ
ここまで、大きな地震とそこから得られた教訓を中心に、地震で倒壊する危険性が高い家とはどのような家かについてご説明して来ました。
結論としては、以下のようにご理解ください。
・地震で最も倒壊の危険性がある家は旧耐震基準の家(1981年/昭和55年以前に建てられた家―2024年現在築44年以上の家)である。
・新耐震基準の家(1981年/昭和55年以降に建てられた家)であっても2000年/平成12年6月以前に建てられた家は、ホールダウン金物が設置されていないため倒壊の危険性がある。
・地震で家屋が倒壊する要因は、地震の種類による場合と建物の強度による場合があるが、両方の要因が掛け合わされて家屋は倒壊する。なかでもホールダウン金物を設置していないために「柱のほぞ抜け」が発生することが最も怖い。
私たちは、地震で家屋が倒壊し命を落とす危険性が高い、旧耐震基準の古い家に住んでおられる高齢者の方々を一人でも多く救いたいと考えています。ご本人が無理でもご家族の方が安い費用でDIYで簡単にホールダウン金物を設置していただけるよう、耐震DIY普及センターを開設し、既存不適格住宅(旧耐震基準で耐震補強未実施の住宅)の撲滅を目指しています。
筆者紹介 株式会社フルハウスミル代表 吉山栄起です。私は阪神淡路大震災の経験者です。被災の経験から一人でも多くの方を地震から救いたいと願い耐震補強金具パワープレートを開発いたしました。今まで20年以上にわたり、できるだけ安く、一人でも多くの方に耐震補強していただけるよう活動を続けています。おかげさまで累計施工件数は12,000棟を超えましたが、国内にはまだ1,000万棟を超える旧耐震基準の木造住宅が残っています。私たちは早急に耐震補強を普及させなければいけないとの強い想いから、このたびDIYで耐震補強工事をしていただける「耐震DIY普及センター」を立ち上げました。